船の世界は、他のどの分野とも資格の仕組みが違います。コースを修了しても、それだけでは船を動かす資格(Certificate of Competency)にはなりません。AMSA(オーストラリア海上安全庁)が求める乗船履歴(sea service)と口述試験、健康診断をすべて満たして、はじめて資格が発行されます。このページは、その順番と、留学生が受講できるコースがどれなのかを最初に整理します。
この分野は、期待と現実のギャップが最も大きい分野の一つです。弊社が調べた範囲で、先にお伝えしておくべき点を6つ挙げます。
1. お問い合わせでよく挙がるコース番号は、現行の資格一覧では確認できませんでした。
MAR20422 / MAR30822 / MAR40922 / MAR50322 / MAR60122 というコード(末尾が「22」のもの)について、弊社が training.gov.au の MAR Training Package のリリース版一覧(Release 5.0 / Release 8.0)と TAFE NSW の公開ページを確認した範囲では、いずれも見つけられませんでした。実際に確認できたのは、末尾が「20」「21」「24」のコード群です(下表)。他社サイトやまとめ記事に古いコード・存在しないコードが載っていることがありますので、出願前に必ず最新コードでご確認ください。
2. 留学生(subclass 500)が受講できると弊社が確認できたのは、3コースだけです。
TAFE NSW International の公開ページおよび International Student Guide 2026 に掲載されていたのは、MAR50320 Diploma of Maritime Operations、MAR60120 Advanced Diploma of Marine Engineering (Class 1) – Motor、MAR50120EW Diploma of Marine Engineering (Engineer Watchkeeper) の3つで、いずれもキャンパスは Newcastle(Tighes Hill)です。Coxswain や Master up to 24 metres などの Near Coastal 系 Certificate コース(MAR10224 / MAR20324 / MAR20424 / MAR30824 / MAR30924 / MAR40224 / MAR40324)は、TAFE NSW の国内学生向けページには掲載がありますが、留学生向け提供を確認できませんでした。
3. コース修了 = 資格取得 ではありません。ここが最大のポイントです。
AMSA(Australian Maritime Safety Authority)の Certificate of Competency は、(1) 承認された訓練コースの修了、(2) 規定日数の乗船履歴(qualifying sea service)、(3) 健康診断証明、(4) 無線資格・救急法などの付随資格、(5) AMSA 試験官による口述試験をすべて満たしたうえで発行されると公表されています。TAFE NSW の国際課程ページにも、コース修了は AMSA の試験要件の一部を満たすにすぎない旨が記載されています(AMSA)。
4. 学生ビザのままでは、乗船履歴を貯めるのは現実的に困難です。
AMSA は「1日の乗船履歴 = 申請する資格に関係する業務を8時間行うこと」と説明しています。一方、subclass 500 の学生ビザには就労時間の上限が定められています(時間数は Home Affairs の subclass 500 のページでご確認ください。弊社では該当ページから数値の抽出ができませんでした)。「1年留学すれば船長になれる」という設計にはなっていないとお考えください。
5. 移住ビザの観点では、海事職はかなり厳しい位置にあります。
弊社が CSOL(Core Skills Occupation List)の公表 PDF を確認した範囲では、ANZSCO 2312(Marine Transport Professionals)のうち掲載を確認できたのは 231212 Ship's Engineer のみでした。231211 / 231213 / 231214 / 231215 / 231299、および 899211 Deck Hand は確認できませんでした。また MLTSSL には 2312 系の職業が1つも見当たりませんでした。このため subclass 189 / 190 / 491、および subclass 485 の Post-Vocational Education Work stream は、これらのコースからは実質的に使えません。詳細は「③ ビザ対応職種としての扱い」で職業ごと・リストごとに整理します。
6. AMSA の技能査定(migration skills assessment)は、豪州の職業資格だけでは受けられません。
AMSA は移住のための技能査定機関として Marine Engineer(231212)・Ship's Master(231213)・Ship's Officer(231214)・Marine Surveyor(231215) を扱っていますが、申請できるのは「STCW 条約に基づく有効な海外の Certificate of Competency」「marine surveyor の資格」「AMSA が発行した STCW Certificate of Competency」のいずれかを持つ人と公表されています(AMSA)。TAFE の Diploma を修了しただけでは査定の対象になりません。
それでも、このコースに意味がある人はいます。すでに日本で海技士免状を持っている方、外航・内航の乗船経験がある方、家業が漁業・海運の方、あるいは STCW 系の英語での訓練を受けておきたい方にとっては、Newcastle の AMSA 承認シミュレーターを使った訓練と英語環境は、他では得にくい経験です。逆に「海が好きだから」だけで渡航先を決めると、資格にも就労にもつながらないまま終わる可能性が高い分野です。
| 留学生が取れるコース | MAR50320 Diploma of Maritime Operations(甲板・航海系)/MAR60120 Advanced Diploma of Marine Engineering (Class 1) – Motor(機関系)/MAR50120EW Diploma of Marine Engineering (Engineer Watchkeeper)(機関系・短期集中) |
| キャンパス | いずれも Newcastle(Tighes Hill)の Maritime 施設。AMSA 承認のシップズ・ブリッジ・シミュレーターを備えると公表されています。 |
| CRICOS コード | MAR50320 = 105105G/MAR60120 = 104550E/MAR50120EW = 107410D |
| 期間 | MAR50320・MAR60120 = 1年/MAR50120EW = 9か月(国際課程ページ表記。ガイドブックでは1年) |
| 最重要ポイント | コース修了だけでは AMSA の Certificate of Competency は出ません。乗船履歴(sea service)・健康診断・口述試験が別途必要です。TAFE NSW の各コースページにも「External industry requirement」として AMSA 要件が明記されています。 |
| ビザリスト | CSOL に確認できたのは 231212 Ship's Engineer のみ。MLTSSL には 2312 系の掲載を確認できず。→ 189 / 190 / 491 / 485(Post-Vocational) は実質的に不可。 |
| 英語条件 | MAR50120EW の国際課程ページには「Academic IELTS 6.0(各バンド 5.5 以上)または同等」と記載。他2コースの条件は弊社では確認できませんでした。 |
| 2026年の学費(公表値) | MAR50320 = AUD 26,650/MAR60120 = AUD 27,775〜29,870(ガイドブックは 27,775)/MAR50120EW = AUD 17,490〜18,190(ガイドブックは 18,725)。出典により値が異なるため、確定額は必ず出願時にご確認ください。 |
| 身体要件 | MAR50120EW のページには「ライフジャケットなしで50m泳ぎ、5分間浮いていられること」が条件として記載されています。中程度の体力も推奨とされています。 |
| 日本との比較 | 日本は「海技士免状(航海1〜6級・機関1〜6級ほか)」+乗船履歴+国家試験+海技免許講習という体系。豪州は AMSA の Near Coastal と STCW の二本立て。免状の相互自動承認はありません。 |
上記は弊社が2026年7月時点で確認できた公開情報に基づく整理です。コース内容・学費・入学条件は予告なく変更されることがあります。
オーストラリアの海事系職業資格は、MAR Maritime Training Package という国の訓練パッケージにまとめられています。弊社が training.gov.au の PDF(Release 5.0 / Release 8.0)を確認したところ、Release 8.0 の資格一覧は18資格で、以下が含まれていました。
| レベル | 資格コード(Release 8.0 時点) |
|---|---|
| Certificate I / II | MAR10220、MAR10418、MAR20121、MAR20321、MAR20421 |
| Certificate III | MAR30120、MAR30220、MAR30320、MAR30821、MAR30921、MAR31021 |
| Certificate IV | MAR40121、MAR40220、MAR40320 |
| Diploma | MAR50120 Diploma of Marine Engineering、MAR50320 Diploma of Maritime Operations |
| Advanced Diploma | MAR60120 Advanced Diploma of Marine Engineering (Class 1)、MAR60220 Advanced Diploma of Maritime Operations (Master Unlimited) |
その後、Near Coastal 系の Certificate 群は2024年版(末尾24)に更新されており、TAFE NSW の国内学生向けページでは以下のコードが確認できました。
| コード | 資格名(到達する AMSA 資格) |
|---|---|
| MAR10224-01 | Certificate I in Maritime Operations(General Purpose Hand Near Coastal) |
| MAR20324-01 | Certificate II in Maritime Operations(Coxswain Grade 1 Near Coastal) |
| MAR20424-01 | Certificate II in Maritime Operations(Marine Engine Driver Grade 3 Near Coastal) |
| MAR30824-01 | Certificate III in Maritime Operations(Marine Engine Driver Grade 2 Near Coastal) |
| MAR30924-01 | Certificate III in Maritime Operations(Master up to 24 metres Near Coastal) |
| MAR40224-01 | Certificate IV in Maritime Operations(Marine Engine Driver Grade 1 Near Coastal) |
| MAR40324-01 | Certificate IV in Maritime Operations(Master up to 45 metres Near Coastal) |
| MAR50320-01 / -03 | Diploma of Maritime Operations(Master less than 500 GT / Watchkeeper Deck) |
| MAR50120-03 | Diploma of Marine Engineering(Engineer Class 3 Near Coastal) |
| MAR60120-01 | Advanced Diploma of Marine Engineering (Class 1)(Engineer Class 1 – Motor) |
注意:上記のうち Certificate I〜IV の Near Coastal 系コースについて、弊社は 留学生向けの提供を確認できませんでした。TAFE NSW International の「Certificate to Advanced Diploma」一覧にも海事系の Certificate コースの掲載は見当たりませんでした。留学生としてご検討いただけるのは、以下の Diploma / Advanced Diploma の3コースです。
training.gov.au の資格 PDF によると、この資格は履修する選択群によって到達点が変わる構成になっています。
| ストリーム | ユニット数 | 内訳 |
|---|---|---|
| Watchkeeper Deck | 22 | コア19 + Group A(MARF032、MARF043、MARO011) |
| Master less than 500 GT | 26 | コア19 + Group B(MARD006、MARF032、MARF038、MARF043、MARG008、MARK010、MARO011) |
| Master less than 80 metres Near Coastal | 22 | コア19 + Group C(MARD004、MARD005、MARH018) |
| 各種スペシャリスト付加 | 24〜28 | 上記+ Group D の選択2ユニット |
コア19ユニット:MARH022、MARH023、MARH024、MARK011、MARO009、MARO012、MARA025、MARN011、HLTAID011、MARA017、MARF031、MARF035、MARF037、MARF041、MARF044、MARF046、MARF047、MARJ008、RIIWHS202E。
HLTAID011 は救急法(Provide First Aid)、RIIWHS202E は作業現場の安全(Enter and work in confined spaces 等の資源産業共通ユニット)です。MARF 系は消火・救命・海上安全、MARH 系は航海当直と船位測定、MARO 系は運航管理にあたるユニット群です。
TAFE NSW International の MAR50320 のページには、修了により「AMSA を通じて master less than 500 gross tonnage vessel の Certificate of Competency を申請する資格が得られる」旨と、就職先の例として Watchkeeper Deck Officer(総トン数を問わない船舶)、Junior Officer、3rd Deck Officer、2nd Deck Officer が挙げられています。
training.gov.au の PDF によれば、MAR50120 は AMSA の Engineer Class 3 Near Coastal、Engineer Watchkeeper(STCW Engineer Watchkeeper Unlimited)、Electro-Technical Officer(STCW ETO Unlimited) のいずれかを目指す人向けの資格で、選ぶストリームによってユニット数が変わります。
| ストリーム | ユニット数 |
|---|---|
| Engineer Class 3 Near Coastal | コア19 |
| Engineer Watchkeeper | 28(コア19 + Group A 全ユニット) |
| Electro-Technical Officer | 32(コア19 + Group B 全ユニット) |
| ETO & Engineer Watchkeeper | 34 |
| スペシャリスト付加 | 21〜36 |
コア19ユニット:HLTAID011、MARF031、MARF035、MARF037、MARF041、MARF043、MARF044、MARF046、MARF047、MARJ008、RIIWHS202E、MARL045、MARL061、MARL054、MARL055、MARL057、MARL056、MARL058、MARL060。MARL 系が機関の運転・保守にあたるユニット群です。
TAFE NSW International で留学生向けに案内されているのは、このうち Engineer Watchkeeper ストリーム(コード表記 MAR50120EW)で、9か月の集中コース・2月入学・Newcastle(Tighes Hill)と記載されています。就職先の例として Engineer Watchkeeper Officer、Coastal Engineer、Shipboard Engineer、Marine Engineer、Watchkeeper が挙げられています。
MAR50120EW で特に重要な記載:同ページには、入学許可(offer letter)を受け取った後に AMSA から Qualifying Sea Service(QSS)の承認を得る必要がある旨、および コース修了は AMSA 試験要件の一部を満たすにすぎない旨が記載されています。つまり「乗船経験のない状態からの入学」は、そもそも想定されていない可能性があります。出願前に必ず AMSA と TAFE NSW の双方にご確認ください。
TAFE NSW International のページには、この課程が「AMSA のライセンス要件を満たすことを助けるよう設計されている」こと、ただし学生は「乗船時間(sea time hours)や健康要件を含む、その他の要件も満たす必要がある」ことが記載されています。参照される規則として Marine Order 72(Engineer Officers)が挙げられています。就職先の例は Marine Engineer(Chief Engineer Class 1)です。
留学生向け提供は確認できませんでしたが、日本の方が想像しやすい「小型船の船長」資格に近いものとして、内容を参考までに挙げておきます。training.gov.au の PDF によれば、この資格は「排他的経済水域(EEZ)内で全長24m までの商用船の船長として AMSA の Certificate of Competency を目指す人」向けで、MAR30921 と MAR31021 を統合したものです。
同 PDF には、AMSA の資格取得には別途、長距離無線資格、Marine Order 505 に規定された qualifying sea service、健康適性、最終評価が必要である旨が記載されています。
ANZSCO(オーストラリア・ニュージーランド標準職業分類)では、海事の専門職は Unit Group 2312 Marine Transport Professionals に、甲板員・漁労員は Unit Group 8992 Deck and Fishing Hands にまとめられています。
| ANZSCO | 職業名 | このコースとの関係 |
|---|---|---|
| 231211 | Master Fisher | 漁船の船長。Near Coastal 系の資格が該当しますが、留学生向け提供は確認できませんでした。 |
| 231212 | Ship's Engineer | MAR50120 / MAR50120EW / MAR60120 の目標職。機関士。 |
| 231213 | Ship's Master | MAR50320(Master less than 500 GT)の目標職。船長。 |
| 231214 | Ship's Officer | MAR50320(Watchkeeper Deck)の目標職。航海士・当直士官。 |
| 231215 | Ship's Surveyor | 船舶検査。実務経験年数の要件が長く、修了直後に就ける職種ではありません。 |
| 231299 | Marine Transport Professionals nec | 上記に分類されない海事専門職。 |
| 899211 | Deck Hand | 甲板員。Certificate I / II 相当。留学生向け提供は確認できませんでした。 |
| 899212 | Fishing Hand | 漁労員。同上。 |
お問い合わせでよくある誤りについて。「231213 = Ship's Engineer」「231214 = Ship's Master」「231212 = Ship's Surveyor」「899211 = Motor Vehicle Parts」といった対応でご相談をいただくことがありますが、弊社が確認した ANZSCO の分類では上表のとおりです。番号の取り違えは、そのままビザ判断の誤りにつながりますのでご注意ください。
なお、実際に上記の職に就くには、AMSA の Certificate of Competency(該当の等級)が必要です。ANZSCO のコードがあることと、実際に乗船できることは別の話です。
ここが、このページで最も冷静にお読みいただきたい部分です。職業ごと・リストごとに、弊社が確認できた掲載状況を示します。
| ANZSCO | 職業名 | CSOL(482 Core Skills) | 186 Direct Entry(LIN 24/093) | MLTSSL | STSOL | ROL |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 231211 | Master Fisher | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず |
| 231212 | Ship's Engineer | 掲載を確認 | 未確認 | 確認できず | 確認できず | 未確認 |
| 231213 | Ship's Master | 確認できず | 未確認 | 確認できず | 確認できず | 情報が割れています |
| 231214 | Ship's Officer | 確認できず | 未確認 | 確認できず | 確認できず | 未確認 |
| 231215 | Ship's Surveyor | 確認できず | 未確認 | 確認できず | 確認できず | 未確認 |
| 231299 | Marine Transport Professionals nec | 確認できず | 未確認 | 確認できず | 確認できず | 未確認 |
| 899211 | Deck Hand | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず |
| 899212 | Fishing Hand | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず | 確認できず |
「確認できず」は、弊社が該当リストの公表資料を読んだ範囲で当該コードを見つけられなかったという意味です。「未確認」は、その資料自体を最後まで読み切れなかった項目です。いずれも「載っていないことの証明」ではありませんので、実際の申請可否は登録移民代理人にご確認ください。
| subclass | 弊社の見立て |
|---|---|
| 500(学生) | 受講そのものは可能です。ただし留学生向け提供を確認できたのは MAR50320 / MAR60120 / MAR50120EW の3コースのみです。就労時間の上限があるため、在学中に AMSA の乗船履歴を必要日数分そろえるのは容易ではありません。 |
| 482(Skills in Demand) | Core Skills stream は CSOL 掲載職種が対象です。231212 Ship's Engineer は掲載を確認できましたので、雇用主のスポンサーと AMSA 資格が揃えば理論上は道があります。他の海事職は CSOL 掲載を確認できませんでした。 |
| 485(Temporary Graduate) | Post-Vocational Education Work stream は、MLTSSL 掲載職業と密接に関連する学位・Diploma・トレード資格であること、および申請時に35歳以下であることが条件と公表されています(Study Australia)。2312 系が MLTSSL にない以上、これらの海事コースからの 485 は現実的ではありません。 |
| 186(Employer Nomination Scheme) | Direct Entry stream は LIN 24/093 の職業リストが対象です。弊社では 2312 系の掲載を最後まで確認できませんでした。Temporary Residence Transition stream は 482 での就労実績を前提とするため、まず 482 が成立するかが起点になります。 |
| 189 / 190 / 491 | 189(独立技術移民)は MLTSSL 掲載が前提のため、現状では対象外と考えられます。190(州指名)・491(地方州指名)は州のリストによりますが、まず MLTSSL / STSOL / ROL のいずれかへの掲載が必要です。231213 の ROL 掲載が事実であれば 491 に可能性が残りますが、上記のとおり弊社では確定できていません。 |
| 494(地方雇用主指名) | 第三者情報では 231213 の対象 subclass に含まれるとされていますが、弊社では原典確認ができていません。 |
AMSA の技能査定という壁。仮に職業リストに載っていたとしても、技能査定機関は AMSA です。AMSA は「STCW 条約に基づく有効な海外の Certificate of Competency」「marine surveyor の資格」「AMSA 発行の STCW Certificate of Competency」のいずれかを持つ人が申請できると公表しており、査定対象として例示されているのは Master Unlimited、Chief Mate Unlimited、Deck Watchkeeper Unlimited とその機関士版などです。TAFE の Diploma 修了証だけでは、この入口に立てません。Marine Surveyor については「学位取得後8年の関連実務経験」が求められると記載されています。
参考:人手不足という文脈は確かに存在します。AMSA が2024年に Jobs and Skills Australia へ提出した文書には、Maritime Industry 2024 Workforce Plan に触れて「12隻の船隊を整備するには STCW 有資格の船員が追加で432人必要になる」との記載があります。同文書には、2023年11月時点で STCW 甲板部証書 2,460件(2,222人)、STCW 機関部証書 1,761件(1,557人)、Near Coastal 甲板部 29,691件(27,325人)、Near Coastal 機関部 12,703件(12,278人)という数字と、有資格者が高年齢層に偏っているという指摘も記載されています。ただし「不足している」ことと「ビザが出る」ことは別です。AMSA 自身が同文書で 231212 / 231213 / 231214 / 231215 の CSOL 掲載を求めている点は、逆に言えば当時それらが掲載されていなかったことを示唆します。
この分野を検討するうえで、最も理解しておくべき仕組みです。オーストラリアの船員資格は大きく二本立てになっています。
オーストラリア沿岸・EEZ 内の商用船が対象。Coxswain、Master up to 24m、Master less than 45m、Marine Engine Driver、Engineer Class 3 などの等級があります。
国際航路の船舶が対象。Watchkeeper Deck、Engineer Watchkeeper、Electro-Technical Officer、Master Unlimited などの等級があります。TAFE NSW の留学生向け3コースは、こちら側を主に想定しています。
AMSA は Near Coastal の乗船履歴について、「1日の sea service とは、申請する資格に関係する業務を8時間行うこと」と説明しています。24時間のうち8時間を超えて働いても、1日としてしか数えられません。証明方法としては、Record of sea service(form 771)、船主・船長等が署名した書面、または AMSA が承認した task book が挙げられており、署名がどうしても得られない場合は法定宣誓供述書(statutory declaration)による方法も示されています。商用のラグジュアリーヨットでの勤務が算入され得る旨の記載もあります。
| 資格 | 乗船履歴の要件(AMSA 公表) |
|---|---|
| Master less than 45 metres Near Coastal | AMSA の task book を使う場合:180日(うち120日は航海当直の責任者として)。task book を使わない場合:360日(うち240日は航海当直の責任者として)。いずれも全長12m以上の商用船で、前提資格を保持した状態での勤務であることが必要とされています。 |
| Watchkeeper Deck(STCW) | 24時間以上の航海で12か月以上の乗船履歴。うち6か月以上は航海当直責任者の下での実務であることが必要とされています。加えて、AMSA 承認の乗船前コース+総トン数500以上の船舶で18か月以上、非承認コース+24か月以上、AMSA 承認の船内訓練+24か月以上、または全長24m以上の船舶で36か月、のいずれかが求められます。 |
| Engineer Watchkeeper(STCW) | 750kW 以上の船舶で36週間の乗船履歴。うち26週間は機関士の監督下で機関当直業務である必要があるとされています。加えて、36週間以上の承認された workshop skills コース、Engineer certificate III、または他の承認資格のいずれかが必要とされています。 |
つまり、順番はこうなります。TAFE のコースは「必要な要素のうちの1つ」です。コース修了 →(自動的に)資格取得、ではありません。特に STCW 系は、乗船履歴が月単位・年単位で必要になります。日本ですでに乗船経験がある方は、その履歴が AMSA の要件にどう算入されるかを、出願前に AMSA へ直接照会することを強くおすすめします。
Jobs and Skills Australia の職業プロフィールでは、Ship's Masters(231213)の就業者数は約3,700人、Ship's Officers(231214)は約550人と表示されていました(週あたり収入・成長率は「N/A」表示で、弊社では数値を取得できませんでした)。AMSA の資料では、証書保有者数として Ship's Master 1,295人、Ship's Officer 1,047人、Ship's Engineer 1,668人という数字が挙げられています。Marine Surveyor(231215)については「査定申請はごくわずか」と記載されています。
この規模感の意味。全国で数千人規模の職業です。求人の絶対数が少なく、かつ資格保有が前提になるため、「卒業して求人サイトで探す」という就職の仕方が成立しにくい分野です。実際には、在学中の人脈や乗船機会を通じて次の乗船先が決まっていくのが一般的とされています。
オーストラリア政府のインフラ・交通・地域開発・通信・芸術省(infrastructure.gov.au)は、Maritime Strategic Fleet として「オーストラリア船籍・オーストラリア人乗組員による、民間所有・商業運航の船舶を最大12隻」整備する方針を公表しています。Taskforce は2022年10月に任命され、最終報告は2023年6月に提出されたとされています。目的は「危機・緊急時における重要貨物の輸送」で、有事には政府が徴用できる船舶とされ、あわせて「オーストラリアの海事人材能力を高めるための雇用・訓練機会」への言及があります。
この計画が予定どおり進めば、AMSA が試算する「STCW 有資格船員 追加432人」という需要が現実化する可能性があります。ただし現時点で、これが留学生の就労ビザ取得に直結するという情報は確認できていません。
SEEK は弊社の環境から本文を取得できませんでした(アクセス制限)。ここでは Indeed AU の集計値を、サンプル数と更新日つきでそのまま引用します。
| 職種 | Indeed AU の平均年収表示 | サンプル・更新日 |
|---|---|---|
| Marine Engineer | AUD 116,517/年 | 31件・2026年3月22日更新 |
| Deckhand | AUD 68,639/年 | 50件・2026年7月17日更新 |
サンプル数が31件・50件と少ないため、この数値は「大まかな水準感」以上のものではありません。実際の待遇は、船種(外航/内航/オフショア/観光船/ヨット)、乗船形態(オン・オフのローテーション)、労働協約の有無で大きく変わります。最新の求人は SEEK(Marine Engineer)や SEEK(Maritime)でご確認ください。
職業別の不足評価(Occupation Shortage List 2025)を参照できるデータベースでは、231212 Ship's Engineer と 231213 Ship's Master はいずれも全国および全州・準州で「S(Shortage/不足)」と評価されていました。ただし前述のとおり、不足評価とビザリスト掲載は連動していません。
国土交通省「船員とは」のページによると、2024年の船員総数は 62,008人で、内訳は外航船員 2,095人、内航船員 28,713人、漁業船員 14,256人、その他 16,944人と公表されています。漁業船員は2015年の19,075人から2024年の14,256人へと大きく減少しています(国土交通省)。
外航船員が2,095人しかいない、という数字。日本の外航海運は世界有数の規模ですが、日本人船員が乗っている船はごく一部です。「日本の外航船員になりたい」という進路は、椅子の数そのものが極めて限られている点をご理解ください。逆に内航(国内航路)は28,713人と規模があり、高齢化を背景に採用意欲は高いとされています。
| 職種 | 平均年収 | 労働時間 | 就業者数 | 必要資格 |
|---|---|---|---|---|
| 航海士 | 470.1万円 | 164時間/月 | 14,390人 | 海技士(航海)免許 |
| 船舶機関士 | 470.1万円 | 164時間/月 | 6,470人 | 海技士(機関)免許 |
| 船員 | 470.1万円 | 164時間/月 | 14,360人 | 海技士免許(航海・機関・通信) |
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)。平均年収は令和7年賃金構造基本統計調査、就業者数は令和2年国勢調査に基づくと表示されています。3職種とも同じ470.1万円が表示されているのは、賃金構造基本統計調査の集計区分が「船舶・航空機運転従事者」等の括りになっているためと考えられます。航海士/船舶機関士/船員
より詳細な船員の賃金統計としては、国土交通省の船員労働統計調査があります。弊社では概要 PDF から具体的な数値を抽出できませんでした(e-Stat へのアクセスも環境上できませんでした)ので、数字が必要な方は直接ご参照ください。
| 項目 | オーストラリア | 日本 |
|---|---|---|
| 機関士の年収目安 | AUD 116,517(Indeed、31件) | 470.1万円(job tag) |
| 母集団の規模 | Ship's Master 約3,700人、Ship's Officer 約550人 | 船員総数 62,008人(うち外航 2,095人) |
| 資格制度 | AMSA:Near Coastal + STCW の二本立て | 海技士免状(航海・機関・通信・電子通信) |
| 試験 | 書類審査+口述試験(AMSA 試験官) | 筆記試験・身体検査・口述試験 |
為替や物価水準、乗船形態が異なるため、額面の単純比較には意味がありません。「同じ資格レベルでどちらが得か」ではなく、「どちらの制度で、どの海域で働きたいか」で判断すべき分野です。
日本で船員資格を目指す場合、独立行政法人海技教育機構(JMETS)の設置校が中心的な進路になります。弊社が同機構のサイトで実在を確認できた2校を挙げます。
資格教育、実務教育・訓練、新人教育(4コース)、水先教育、外国人教育を行う機関です。海上技術コース・海技士コースの修了により、海技資格の筆記試験が免除されると案内されています。すでに乗船経験のある方が上位級を目指す場合の受け皿としても機能しています。
高校卒業後に2年で船員を目指す課程です。修了により四級海技士の筆記試験が免除されると案内されています。日本で「乗るための最短ルート」を考える場合、まず候補に挙がる学校の一つです。
このほか JMETS には、国立館山海上技術学校(3年)、国立口之津海上技術学校(3年)、国立宮古海上技術短期大学校、国立波方海上技術短期大学校、国立小樽海上技術短期大学校、国立唐津海上技術短期大学校などがあります。一覧は JMETS の学校紹介ページでご確認ください。
TAFE NSW との構造的な違い。JMETS の課程は「学校の中に乗船実習が組み込まれ、筆記試験免除まで一体で設計」されています。一方 TAFE NSW の海事コースは「訓練部分だけを切り出したもの」で、乗船履歴は学生自身が別途確保する必要があります。この設計思想の違いが、留学の難易度をそのまま決めています。
国土交通省の公表内容によると、日本の海技士資格は 海技士(航海)1〜6級、海技士(機関)1〜6級、海技士(通信)1〜3級、海技士(電子通信)1〜4級に区分されています。取得には以下が必要とされています(国土交通省)。
| 論点 | 日本(海技士) | 豪州(AMSA) |
|---|---|---|
| 資格の枠組み | 級位制(航海1〜6級・機関1〜6級ほか) | Near Coastal(Marine Order 505)と STCW(Marine Orders 70〜73)の二本立て |
| 試験 | 筆記+身体検査+口述。年4回の定期試験。 | 書類審査+口述試験。筆記に相当する部分は RTO の訓練評価で代替される構成。 |
| 養成機関との関係 | JMETS 等の課程修了で筆記試験免除という直接的な連動がある。 | RTO のコース修了は要件の一部。免除ではなく「構成要素の一つ」。 |
| 乗船履歴 | 級位ごとに年月単位で規定。 | 日数・週数単位で規定(例:Master less than 45m は task book ありで180日)。 |
| 相互承認 | 日本の海技士免状と AMSA の Certificate of Competency は、自動的に相互承認される関係にはありません。STCW 条約に基づく承認(endorsement)の手続きが別途必要になります。 | |
弊社が確認できたのは、MAR50120EW(Diploma of Marine Engineering – Engineer Watchkeeper)の国際課程ページに記載された条件のみです。
MAR50120EW:Academic IELTS 6.0(各バンド 5.5 以上)または同等
あわせて、受入前に Head Teacher によるアセスメントが必要である旨が記載されています。
MAR50320 と MAR60120 の英語条件については、弊社では個別ページから確定値を確認できませんでした。TAFE NSW International Student Guide 2026 の AQF レベル別 IELTS 一覧(p.75)も、弊社の環境では判読できませんでした。英語条件は必ず出願前に個別にご確認ください。
英語が届いていない場合。TAFE NSW の International Student Guide 2026 には、「General English を修了すると、IELTS 6.0 を入学要件とする TAFE NSW の職業コースへ直接入学できる」旨の記載があります(p.10)。General English は CRICOS 049258C、開講キャンパスは Ultimo・Newcastle(Tighes Hill)・Wollongong・Kingscliff で、毎週月曜開講とされています。学費はコースとパッケージで申し込む場合が週 AUD 340、単体申込が週 AUD 420 と記載されています。
→ 語学部分の詳細は TAFE NSW Ultimo(語学)のページもあわせてご覧ください。クイーンズランド州の選択肢は TAFE Queensland の英語コースにまとめています。
この分野で最も多い誤解。「海事の Diploma は未経験から入れる」と思われがちですが、少なくとも MAR50120EW については、AMSA の QSS 承認が入学プロセスに組み込まれている旨が記載されています。未経験からの出願が可能かどうかは、必ず TAFE NSW と AMSA の双方に確認してください。弊社でも代行して照会いたします。
下表は、弊社が確認できた公表値のみを記載しています。出典によって金額が異なるものは、どちらが正しいと断定せず併記します。
| コース | CRICOS | 期間 | 2026年 学費(留学生) | キャンパス・入学時期 |
|---|---|---|---|---|
| MAR50320 Diploma of Maritime Operations | 105105G | 1年 | AUD 26,650 (国際課程ページ・ガイドブックとも同額) | Newcastle(Tighes Hill)/2月・7月 |
| MAR60120 Advanced Diploma of Marine Engineering (Class 1) – Motor | 104550E | 1年 | AUD 27,775〜29,870(国際課程ページ) AUD 27,775(ガイドブック2026) | Newcastle(Tighes Hill)/2月・7月 |
| MAR50120EW Diploma of Marine Engineering (Engineer Watchkeeper) | 107410D | 9か月(国際課程ページ) 1年(ガイドブック2026) | AUD 17,490〜18,190(国際課程ページ) AUD 18,725(ガイドブック2026) | Newcastle(Tighes Hill)/2月 |
出典:TAFE NSW International の各コースページおよび TAFE NSW International Student Guide 2026(© TAFE NSW International 2025、印刷時点2025年8月現在との記載)。RTO 90003/CRICOS Provider Code 00591E。
学費以外にかかるもの。MAR50320 の国際課程ページには、制服・器具・教科書・材料等の追加費用として 1コースあたり AUD 300〜1,000 という目安が記載されています。このほか、以下は学費に含まれません。
弊社では推測での金額提示はいたしません。これらの実費を含めた総額の見積もりが必要な場合は、下記フォームからご依頼ください。
MAR50320 について、留学生向けの入学条件に乗船歴が必須と明記された記載は、弊社では確認できませんでした。ただし国内学生向けページには「海事資格の保有を推奨」とあり、MAR50120EW(機関系)については AMSA の QSS 承認がオファー後の手続きとして明記されています。未経験からの出願可否は、コースごとに TAFE NSW へ個別照会が必要です。弊社で代行して確認いたします。
いいえ。修了しただけでは AMSA の Certificate of Competency は発行されません。乗船履歴(sea service)、健康診断、無線資格・救急法、AMSA 試験官による口述試験が別途必要です。乗船履歴は等級により180日〜36週間〜12か月と幅があり、これが最大の関門です。
自動的には使えません。STCW 条約に基づく承認(endorsement)の手続きが別途必要になります。ただし、AMSA の移住技能査定(migration skills assessment)は「STCW 条約に基づく有効な海外の Certificate of Competency」の保有者を対象としているため、日本で STCW 相当の証書をお持ちの方は、TAFE のコースだけで挑む方より明確に有利な立場にあります。詳細は AMSA の該当ページをご確認ください。
Post-Vocational Education Work stream は MLTSSL 掲載職業と密接に関連する資格であることが条件とされており、申請時に35歳以下であることも公表されています。弊社が確認した範囲では ANZSCO 2312 系は MLTSSL に掲載が見当たらないため、これらの海事コースからの 485 は現実的ではないと考えています。485 を前提にした進路設計は、別の分野でお考えいただくほうが安全です。
正直に申し上げると、かなり厳しい部類です。CSOL で掲載を確認できたのは 231212 Ship's Engineer のみで、これは subclass 482(Core Skills stream)の入口にあたります。ここから 186 の Temporary Residence Transition へ進む道筋は理屈のうえでは存在しますが、雇用主のスポンサーと AMSA 資格の両方が前提です。231213 Ship's Master の ROL 掲載については、弊社が原典を複数回確認しても結果が一致せず、断定できていません。個別のご判断は、弊社在籍の登録移民代理人にご相談ください。
Coxswain Grade 1 Near Coastal に対応するのは MAR20324 Certificate II ですが、弊社が確認した範囲では 留学生向けの提供を確認できませんでした。TAFE NSW International の Certificate から Advanced Diploma までの一覧にも、海事系 Certificate の掲載は見当たりません。ワーキングホリデーや永住権保持など、別のビザ資格で受講できる可能性はありますが、subclass 500 での受講は想定されていない可能性が高いとお考えください。
このページを作成するにあたり、弊社が最後まで確認できなかった項目を正直に列挙します。ご検討にあたっては、これらを「不明」として扱ってください。
上記は2026年7月時点の弊社の確認状況です。ご相談いただければ、必要な項目について TAFE NSW・AMSA へ個別に照会いたします。
学歴・職歴・英語力・ご予算・目標時期をうかがって、このコースが現実的かどうかを率直にお伝えします。合わないと判断した場合は、その理由と代わりの選択肢もお出しします。
資料と最新情報を請求する(無料) 無料カウンセリングを申し込む最終更新:2026年7月26日。本ページの記載は、弊社が上記の公開情報から確認できた範囲をまとめたものです。掲載内容は変更される場合がありますので、出願・申請の際は必ず一次情報をご確認ください。